アップルの共同創業者、スティーブ・ジョブズ氏が亡くなった。享年56歳という余りに早い死を、世界中の人々が悼んだ。オバマ大統領は、真情あふれる弔辞をジョブズ氏に捧げ、その言葉をこう締めくくった。「世界はビジョンのある1人の人物を失った。世界中の多くの人がスティーブの発明した機器で彼の死を知ったという事実ほど、スティーブの成功を如実に物語るものはないのではないか」
私もジョブズ氏の死を,愛用のiPhoneを通じて知った。そして、無念の早世を哀悼する気持ちが湧き上がると同時に、自分でも驚くほどの喪失感に襲われた。私は自他共に認めるアップル愛好者であるが、ジョブズ氏の創った世界が自分の生活の大切な一部になっていることを改めて知ったのだった。
ジョブズ氏は、1976年、AppleⅠを、盟友・スティーブ・ウォズニアック氏と共同して、ガレージを改造した小さな工場で創り出した。AppleⅠは世界最初のパソコン(パーソナルコンピュータ)と言われる。それまでのコンピュータは、大企業のシステムとして使われるか、高度な知識と技術を持つオタクのものでしかなかった。ジョブズ氏は、コンピュータを普通の誰もが持つことにより、人々の生活はいままでにない豊かさを手に入れ、世界は変わると確信していた。AppleⅠは、ただの小さなコンピュータではなく、世界を創り変えるパソコンというジョブズ氏のヴィジョンを体現したものだった。AppleⅠからAppleⅡ、Macintoshへと進む進化は、ジョブズ氏の世界を変えるパーソナルコンピュータというヴィジョンが、まさに実現されていく過程そのものだった。
ジョブズ氏は、その後、劇的な追放劇を経て、1997年、アップル社に復帰し、iMac,iPod,iPhone,iPadと斬新な製品を次々と生み出していく。iMacはパソコンの大衆化を決定的なものにした。iPodは、CDからデータのダウンロードへと人々の音楽の聞き方を決定的に変えた。iPhoneは、携帯電話をスマートフォンの方向へ転換させる先導役を果たした。iPadはタブレット端末という新しいジャンルを切り開きつつある。これらは、それぞれ一つの製品ではあるが、すべてジョブズ氏の世界を創り変えるというヴィジョンをモノの形にしたものだった。
世界はジョブズ氏という偉大な玉手箱を失ってしまった。しかし、ヴィジョンを持つこと、そして、それは必ず実現するのだ、という希望を持つことの大切さを、ジョブズ氏は私たち教え続けている。


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