「アランの幸福論~ピンをさがせ~(2)」 (湘南あおぞら・倉重 達也)
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 さて、前回はアランの幸福論の日本の出版事情について書いたが、今回はその内容を見てみよう。

 その巻頭の「名馬ブケファロス」。有名なその一節はこんな書き出しで始まる。

「幼い子どもが泣きわめいていくらなだめてもいっこうらちがあかないとき、乳母はよく、その子の性質や好き嫌いについて誠に気のきいた推測をするものだ。遺伝まで引っ張り出して、もう父親そっくりだなどという。そんな心理学的な試みをつづけているうちに、ついに乳母はピンを発見したりする。ピンがすべてのほんとうの原因だったのだ。」

 こんな話を聞いた経験は誰でも1度や2度はありそうだ。

「名馬ブケファロス」というタイトルはアレクサンダー大王に献上された名馬があばれ馬で、そのあばれる原因が自分の影に怯えていることを大王が見つけた故事による。どちらも本当の隠された原因を探すことが大事で、それには深い知恵が必要だと言うことを示している。

アランは、情念についての考察を進める中で、ちょっとした体の疲れがいらだちや不機嫌のもとであるのに、周りの人はその不機嫌な理由をあれこれ推測して「私を嫌っているからあの人は機嫌が悪いのだ」「上司に怒られてイライラしている」などと言うもっともらしい理屈や理由を考え出してしまうという、誰にでもありがちな「情念の罠」についてたびたび警告している。

情念などというものは無視してやれば自然と癒えてしまう性質のものだから、そういう時には余計なことを言わずに、ただ、そっと椅子をさし出してやればよい。単に疲れているからにすぎないのだから。

こうした考えを結論づけて、次のように文を結んでいる。

「人間の性格はこうこうだ、などとけっして言ってはならない。ピンをさがすがいい。」

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