日記

実習生は"見た!"

現場主義とか臨床値と言いながら現場を離れ、大学で社会福祉領域を教えた10年ほどは全く違う景色を眺めた。世間では大学教員のイメージは豊富な知識や見識の高さを感じるが、権力闘争や"オタク?"って思うほど世間に疎い人もいて一般社会と変わらなかった。さらに領域が細分化され接点が少ないから個人事業主の印象だった(私が特別だったのかも...)。そんな中で一番の癒しは学生達との付き合い。もちろん腹立たしい学生もいるが、何かを求める学生が"わかった!"とす~っと吸収する姿は感謝の気持ちすら覚えた。学生が真剣に話すのが"実習体験"。情報通りもあるが、あの施設で?あの法人でなぜ!とも思った。学生から真顔で見解をただされた時もあった。

 まずは帰郷して実習した報告。「先生!聞いて!」。学生は怒り心頭。毎朝、登校前の清掃後"理事長先生に感謝します!"と全員で唱和するそうだ。「あんなことをやらせて良いんですか!?」と。理事長は地元の名士で、行政監査等でも指導出来にくいらしい!と訴えてきた。学生は両親の仕事柄、行政監査の実状を聞かされていたようだ。しかも、地元で一番大きな社会福祉法人だと・・・。個人的経験ではこのようなことはないが、他県に実習した学生の施設訪問で感じたことがあったのでありそうだと思った。施設運営最低基準は法人の独自性を否定するものではないが、行き過ぎた思想信条の強要は指導対象では・・・?

 療育に疑問を投げられ言葉に窮したこともあった。知的障害児・者施設でどうして自立した利用者も指示を仰いで洗面をしなきゃいけないの?トイレに行く時間を決めるのはなぜ?食べたくないのに無理やりに口に入れた職員がいたがどうして?学生は自分基準で見て当り前ではないことをどう理解すべきか困惑していた。また、学んだこととの違いに疑問を持ち整理がつかずに問う。中には就職先と考えていたがショックで方向転換するものもいた。学生は実に正しい。実習中に職員から聞き疑問を持たずに話すこともあった。そうなると間違いだと説明しづらい。たとえば記録は時間の無駄だから監査に出せる程度で良いので利用者様との時間を大切にしなさいと言われた学生は、記録の意味を全く理解できておらず実習日誌が...とても残念!

 一番困ったのは"先生、職員が「そこの(便器の)水でも飲んどけ!」"と言った話。さすがに見逃せず「絶対にダメ!」と全学生に伝え、実習先から外した。実習指導で施設訪問をするが、社会福祉領域の教員は少ないので職員は簡単にはぐらかせる。さらに、本気で正しいと考えている場合は本当に対応が難しい。また、行政権限はないので伝えることさえはばかる。もし、実習を受け入れてもらえなくなったら...とも考えてしまう。

 知人の園長から呼び出しを受けた。何か粗相をしたのだろうと覚悟して伺うと、学生が施設内虐待を施設長に訴えた由。加害対象はベテラン職員。精査した結果、軽微な虐待と認定、対象職員を厳重注意。だが、実習途中で学生も居づらくなり困り果てての相談だった。施設長や職員と協議の結果、実習継続。無事終了後、学生と話し合った。まだ若く正義感の強い学生の行動は大学側にも問題を投げた。学生は実習で多くを学ぶが、送り出す側も、受け入れる側も大いに学ぶべきものがある。