日記
〜暗記パンがあったらねぇ〜(相談支援プラザ 課長 一戸香織)
小さな頃から観ていた『ドラえもん』。
毎週テレビを楽しみにしていました。漫画や映画も大好きでした。
何でも出してくれる魔法のポケットを持つドラえもんと、友達になりたいと思っていました。
先日、八十歳の方のお宅を訪問したときのこと。
その方は、少し笑いながら話してくれました。
「最近、物忘れが増えてきてね。昔は何でもすぐ思い出せたのに、今は何をしようとしていたか忘れちゃうことがあるのよ」
「スマホを使っているけど、時々どう操作していいか分からなくなるの」
そう言いながらも、「忘れないようにメモを取っているのよ」と、ノートを見せてくれました。
ページいっぱいに丁寧な字で書かれた日々の記録。そこには、暮らしの工夫と努力がにじんでいました。
そして、ぽつりと一言。
「ドラえもんの"暗記パン"があったらねぇ。どんなに助かるかしら」
私は思わず笑ってしまいました。
「ああ、ありましたね、"暗記パン"。パンに写して食べると覚えられるパンですよね」
子どもの頃、テストの前に"暗記パン"が欲しいと何度も思ったものです。
「そうそう。あれがあったら、毎日全部食べちゃうわよ」
その方も笑いながら、ドラえもんの話を続けました。
けれど、ふと気づきました。
その方が今、求めている"暗記パン"は、安心して日々を過ごすための道具なのだと。
記憶力の衰えは、誰にとっても不安なことです。
でも「忘れること」を恐れるのではなく、
「思い出す手がかりを残すこと」や「誰かに聞ける安心感を持つこと」が、これからの暮らしを支えてくれるのかもしれません。
ドラえもんのような魔法の道具はなくても、
メモや会話、人とのつながりの中に「記憶のヒント」があります。
すべてを完璧に覚えることはできなくても、
誰かと共に思い出しながら歩んでいけること。
そのつながりが、記憶を補い、心を支えてくれるのではないでしょうか。
道具がなくても、人との関わりや日々の工夫の中にこそ、
安心して暮らしていくための"記憶の助け"があるのだと思います。
その一つひとつの時間を大切に積み重ねていくこと。
それこそが、私たちの暮らしを豊かにしてくれる"魔法の力"なのかもしれません。
↓我が家のドラえもん
この記事を書いた人

お米の産地で生まれ育ち、ご飯が大好き!おにぎりでお米の違いが分かります。微妙な力加減で、ふっくらとしたおにぎりを作れる事が密かな自慢。
具は大好きな梅干し!
