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理事長日記
「積読(つんどく)の効用」
いつかは読むだろうと思って買った本が書棚に入りきらずに「積読」状態になっています。これを何とかしようと時間に余裕がある時に少しずつ本の整理を進めていまが、これがなかなかに難しい。捨てる方の段ボールに入れた本を、惜しくなって読み返しているうちにまた読むかも知れないと思って段ボールから戻してしまいます。
そんなことを繰り返すうちに最初に読んだ時よりさらに感心する本と最初の感動は色褪せて途中でページを閉じてしまう本の2種類があることに気がつきました。その理由がどこにあるのかは判然としません。途中で閉じてしまう本は若い時に感動した本に多い気がします。
再読して最後まで読み通した本には吉川幸次郎と言う中国文学者の「古典について(講談社学術文庫)」がありました。
特に中国文学に興味があるわけではありません。また、吉川幸次郎の文章は突き放すようなところがあって、とても理解できたとは言えないのですが、分からないなりに読むものを引き付ける魅力があります。それは江戸時代の儒者である伊藤仁斎や荻生徂徠がその時代の厳粛主義に反対して「寛容主義」を説いていたという部分などですが、きっと自分の意識の底にあるものと通じている何かがあるのでしょう。今読み返しても古びない不変なものを感じます。
そう言えば、積読状態のもう一つの本にヴォルテールの「寛容論」と言う本もありました。
以上
(2025.5.1 理事長 倉重達也)
「多様性・公平性・包括性(DEI)」
「トランプ米大統領が『多様性・公平性・包括性(DEI)』政策の見直しを進めている。」と言うニュースには大きなショックを受けました。1月19日の就任前日、ワシントンで開かれた支持者向けの集会でトランプ氏が「破壊的で分断を生むDEIの強制をやめる。政府と民間のすべてで、米国を実力主義に戻す」こう宣言すると、会場から歓声がわいた、と言うところまでは今までのトランプ流の話と思っていましたが、CBSニュースが1月中旬に実施した世論調査で、DEIのさらなる推進を求める人は39%、現状維持を望む人は27%。他方、終了を求める人も34%に上り、米国民の3分の1が否定的な立場を取る、と言う報道を読むとこれからの日本の事に心配が移りました。さかのぼってこれに関する記事を探してみると昨年11月の大統領選でトランプ氏が勝利した後、マクドナルドや小売り大手のウォルマート、IT大手のメタなどは相次いで「DEI」の取り組みの縮小や廃止を発表した、などが報道されているのが見つかりました。それ以外にも連邦政府の「多様性、公平性、包摂性(DEI)」事業に携わる全職員を直ちに有給休暇扱いにするよう命じたなど、次々と「反DEI」に関する記事がありました。
危惧するのは日本も進めようとしている「多様性・公平性・包括性(DEI)
の機運に水を差すのではないかということです。われわれの業界に関連して言えば、障がい者の権利はもとより、今進めようとしている意思決定支援、地域でのあたりまえの生活の推進などに影響が出ないかと心配になります。
米国がくしゃみをすると日本が風邪を引くと言われていた時期がありました。そうならないことを切に願ってやみません。
以上
2025.4.1 理事長 倉重達也
「応援の力」
近年、スポーツの種類が広がりを見せ、若者が活躍する姿を目にすることが多くなりました。昨年行われたパリオリンピックのブレイキンやスポーツクライミング、スケートボードなどでは日本の選手が活躍する姿が見られ、その度に若い選手がインタビューなどで口にする言葉は今まで支えてきてくれた親や指導者への感謝とその場で応援してくれた観客への感謝の言葉でした。その時は「今の若者は何か皆、同じようなことを言うなあ」と言う思いで見ていました。
バレーボールやバスケットボールのリーグ戦などを見ていても試合終了後に活躍した選手のインタビューがあり、必ずと言っていいほどファンへの感謝の言葉があり、その時もリップサービスの常套句だなと思ってちょっと冷めた思いで聞いていました。
しかし、そんな自分の思いが変わった時がありました。それはスポーツの場面ではなく、「法人の中長期計画(インクルージョンプラン)」について外部の専門家の方々から意見をいただいていた時でした。皆さん真剣に藤沢育成会の事を考えてくださり様々な観点から意見をいただきました。それは、法人内部ではなかなか出難い視野の広い内容でした。こんなに藤沢育成会、強いては障害者福祉の事を考えてくれている人達がいると思うと大変心強く、同時に「応援の力」と言うのを実感した瞬間でもありました。
以上
(2025.3.1 理事長 倉重達也)
「多様化」
あるファミリーレストランで食事をした時のことです。お手洗いに行く途中の掲示板に黄色で大き目のサイズで目立つように1枚のポスターが張られているのに気が付きました。
ポスターには、
「従業員の身だしなみの多様化を始めました。」
とあり、その下にイラスト入りで
「髪色自由!」
「ピアスOK!」
「ヘアネットなしOK!(パーマOK)」
と書いてありました。
このポスターをご覧になった方も多いと思います。本来ならば「規則を変更しました。」とでも書くところなのでしょうが、従業員向けのポスターではなくお客様向けに掲示されたものですので「多様化」と言う言葉を選んだのでしょう。
「多様化」と言う言葉の使い方が「身だしなみ」に対して使われることが適切であるかどうかと言う問題はあるかも知れませんが、今までと違った言葉の使い方をすることによって目には見えない風習や規則を変えていく原動力になると言う側面があるのだと思います。
このポスターには担当者の働き手の変化に対応しようとする気持ちや顧客が持っている固定観念を変えようとする苦心の跡が伺えてとても興味深いものでした。
少し飛躍して考えてみれば、総合支援法の基本理念である「・・・障害者及び障害児にとって日常生活または社会生活を営む上で障壁となるような社会における事物、制度、慣行、観念その他一切のものの除去に資することを・・・」を進めていく上での大きなヒントになるのではないかと思います。
以上
(2025.2.1 理事長 倉重達也)
「巳年」
新年あけましておめでとうございます。本年も皆様方にとりまして良い年になりますよう心よりお祈り申し上げます。
さて、今年の干支は巳年です。どんな意味があるのかと少し調べてみると巳年は十二支の6番目で、蛇のことを指し、蛇は脱皮することから「再生と復活」「成長」を象徴しているとのことです。
蛇は古い皮を破って脱皮するのですが、人間の場合にも脱皮と同じようなものがあるのでしょうか。思春期に起こる様々な変化がそれにあたるかもしれませんが、人間は社会的な動物でもあります。それに関連して思いつくものは成人式などの儀式です。入園式、入学式もそれに相当するでしょう。社会人になる時の入社式、長いサラリーマン生活では昇格・昇進なども古い皮を破って新たな役割を担った人としての再生を期待されている大事な儀式かも知れません。
蛇が皮を破るのはそれまでの古い皮があるからです。人間の場合もただ、儀式だけをしていてもそれまでの習慣や考え、行動から抜け出すと言う自覚がないことには成長には結びつかないでしょう。
今の時代は「成長」「再生と復活」と言っても若い人にはあまり訴える力がないかも知れませんが人間が生きていく上でいろいろな形で脱皮を繰り返していることを考えることは今年の干支にちなんだ良いテーマだと思います。
以上
2025.1.1 理事長 倉重達也
「おじゃまします」
もう一か月ほど前の法人内の会議で、グループホームの担当所長から「『おじゃまします』と言う感覚が大事なのです」との発言がありました。
藤沢育成会が3年前に作ったバス・トイレ・キッチン付きの独立したワンルームタイプのグループホームでは、そこに職員が支援に入る時には自然に「おじゃまします」と言う言葉が出てくるのだと言います。
ある意味で当たり前の話ではありますが、私にとっては衝撃的な言葉であったとともに目から鱗が落ちるような気がしました。
入所施設であっても自然にそう言う言葉が出てくるような建物の作り方はできないものでしょうか。そんな思いも広がってきます。
日本財団が建築と福祉のコラボレーションに多額の助成金を出すという発想の元にも、従来、福祉業界が優しさや、寄り添う気持ちと言うソフト面にのみ目が行っていたところに建築と言うハード面から考えて行くことも重要だということに気が付いたからではないでしょうか。少し大げさに言えば人が暮らすにはやはりインフラが相当な程度に大事な要素になるという事でしょう。
一昔前の私の子どもの頃は親子が川の字になって寝たりとか、向こう三軒両隣の親しくしている家は挨拶もそこそこに家に上がり込んだりという光景が自然と見られ、その事がたとえ貧しくとも心は豊かに暮らしていますと言う象徴でもありました。それが個人の意識の高まりとともに玄関の施錠だけでなく、部屋の一つ一つにも鍵を掛けられるような建物に変わってきました。
プライバシーを守ると言う啓発活動も大切ですがハード面からの整備も同時に考えて行くことがそれに劣らず重要であるという事を思い知らされた「おじゃまします」の一言でした。
以上
2024.12.1 理事長 倉重達也