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理事長日記
「社会的健康」
年齢を重ねると共に仕事や趣味の話題に代わって健康に関する話が増えてきました。同年代の人が病気になったり、自分自身の体力の衰えを感じたりすることが多くなったのが一因かも知れません。
「福祉新聞」7月8日号一面の「一草一味」に佛子園の理事長雄谷良成さんが、「逆境から生まれる新しい福祉」と題した論説がとても興味を引きました。WHO(世界保健機関)の健康の定義として「身体的・精神的・社会的に良好な状態」とあることを紹介し、福祉現場では身体的・精神的な個別支援に力を注いてきたが、人と人との関係性を重視した「社会的健康」が十分に担保されていないのではないかと問題提議をしていました。
能登半島地震に関連しての話から論を進め、入所型施設の暮らしは内部で完結し、一般社会の多様で重層的な関係性とは質・量とも大きく異なり、こうした関係性の貧困が災害時の孤立と関連死の要因となったと言うのです。そこから福祉の未来が芽吹いて来ると論じているところにはとても共感しました。
これは利用者の地域移行を目指す我々にとっても考えていかなければならない大切な視点だと思います。一般社会の中で地域の人との関係性の構築がなされなければ、災害時だけでなく平時においても地域で孤立する恐れがあるからです。
今年、法人では利用者の地域移行を進める事業に取り組んでいます。それを進める中で地域の利用者を支えるサポーターを増やし地域での支え合いを促進するという大きな目標を掲げました。多様な人と関わる「関係性の構築」が最重要課題になります。
以上
(2025.8.1 理事長 倉重達也)
「実用書」
先日、待ち合わせ時間に少し早く着いたので近くの書店で時間をつぶしていました。職員の中で心理学を勉強してきたと言う人が増えてきたような気がしたので何気なく「完全カラー図解 よくわかる 発達心理学」と言う本を手に取って見ました。
拾い読みしてみると、表題通りにとても分かりやすく、イラストも色とりどりで、エリクソンだのピアジュだのの説を上手に解説しています。
内容も、幼児期の「けんか」は対人スキルを学ぶ経験のひとつと肯定的に書いてあったり、「しつけ」も「しつけ」の仕方を3つのタイプに分けて「説明的・誘導的なしつけ」であれば「生活動作や行儀作法、規律、規範等を教え」「自分自身で判断して行動する力」を身につける手段として有効であると書いてあったりします。
正直なところ読んでびっくりしました。私が学生の頃の50年前にはこのような本はなかったと思います。エリクソンが書いた本は挑戦しましたが難しくて多分途中で放り投げたと思います。心理学の本と言うと専門書と言うイメージしかありませんでした。
このような実用書と言っても良いような本が出版されるようになったのは、想像するに出版業界にも心理学の素養のある方が増えて社会全体の心理学に対する教養のレベルが底上げされたからではないでしょうか。
実用書が増えてくるという事はその分野の裾野が広がってきたと言う証なのかも知れません。そうなるまでにはやはり長い年月を要すると思います。
以上
2025.7.1 理事長 倉重達也
「続・積読(つんどく)の効用」
前回の5月理事長日記の「積読(つんどく)の効用」の最後にヴォルテールの「寛容論」もその積読(つんどく)の一冊であることを書きました。奥付を見ると2011年1月とあるので15年前に購入したと思います。この本は買ったまま一度も目を通さずに置いたままの正に「積んで置く」だけの本でした。
多分、18世紀の中頃に既に「寛容」というテーマで書かれていることに興味を持って買ったのでしょう。この1か月の間にパラパラとページを捲ってみるとなかなか難しい。宗教的な冤罪事件を通して寛容の必要性を説いているようですが、やはり時代と文化との隔たりは大きいと感じました。
もう一冊、書棚の片隅にジョン・ロックの「寛容についての手紙」と言う本を見つけました。これはヴォルテールより前の17世紀後半に出版された本です。本の奥付に2018年6月と書いてあるので7年程前に買ったものだと分かりましたが、購入したことはすっかり忘れていました。表紙の紹介文を読むと、信仰を異にする人々の「寛容」はなぜ守られるべきなのかを宗教と政治の役割について書いてあるとあります。
十数年も「寛容」と言う言葉に関心があったことに自分でも驚きました。しかし、「積読(つんどく)の効用」と題しながら、やはり積読だけではあまり効用がなさそうです。
現代の世界に広がる不穏な動きや争いを見るにつけ、何百年も、あるいはひょっとして何千年もこのような寛容と言うテーマを人類は考え続けているのにどうして寛容な社会が実現しないのか、少しでも理解するために暇を見ては読み進めてみたいと思います。
以上
(2025.6.1 理事長 倉重達也)
「積読(つんどく)の効用」
いつかは読むだろうと思って買った本が書棚に入りきらずに「積読」状態になっています。これを何とかしようと時間に余裕がある時に少しずつ本の整理を進めていまが、これがなかなかに難しい。捨てる方の段ボールに入れた本を、惜しくなって読み返しているうちにまた読むかも知れないと思って段ボールから戻してしまいます。
そんなことを繰り返すうちに最初に読んだ時よりさらに感心する本と最初の感動は色褪せて途中でページを閉じてしまう本の2種類があることに気がつきました。その理由がどこにあるのかは判然としません。途中で閉じてしまう本は若い時に感動した本に多い気がします。
再読して最後まで読み通した本には吉川幸次郎と言う中国文学者の「古典について(講談社学術文庫)」がありました。
特に中国文学に興味があるわけではありません。また、吉川幸次郎の文章は突き放すようなところがあって、とても理解できたとは言えないのですが、分からないなりに読むものを引き付ける魅力があります。それは江戸時代の儒者である伊藤仁斎や荻生徂徠がその時代の厳粛主義に反対して「寛容主義」を説いていたという部分などですが、きっと自分の意識の底にあるものと通じている何かがあるのでしょう。今読み返しても古びない不変なものを感じます。
そう言えば、積読状態のもう一つの本にヴォルテールの「寛容論」と言う本もありました。
以上
(2025.5.1 理事長 倉重達也)
「多様性・公平性・包括性(DEI)」
「トランプ米大統領が『多様性・公平性・包括性(DEI)』政策の見直しを進めている。」と言うニュースには大きなショックを受けました。1月19日の就任前日、ワシントンで開かれた支持者向けの集会でトランプ氏が「破壊的で分断を生むDEIの強制をやめる。政府と民間のすべてで、米国を実力主義に戻す」こう宣言すると、会場から歓声がわいた、と言うところまでは今までのトランプ流の話と思っていましたが、CBSニュースが1月中旬に実施した世論調査で、DEIのさらなる推進を求める人は39%、現状維持を望む人は27%。他方、終了を求める人も34%に上り、米国民の3分の1が否定的な立場を取る、と言う報道を読むとこれからの日本の事に心配が移りました。さかのぼってこれに関する記事を探してみると昨年11月の大統領選でトランプ氏が勝利した後、マクドナルドや小売り大手のウォルマート、IT大手のメタなどは相次いで「DEI」の取り組みの縮小や廃止を発表した、などが報道されているのが見つかりました。それ以外にも連邦政府の「多様性、公平性、包摂性(DEI)」事業に携わる全職員を直ちに有給休暇扱いにするよう命じたなど、次々と「反DEI」に関する記事がありました。
危惧するのは日本も進めようとしている「多様性・公平性・包括性(DEI)
の機運に水を差すのではないかということです。われわれの業界に関連して言えば、障がい者の権利はもとより、今進めようとしている意思決定支援、地域でのあたりまえの生活の推進などに影響が出ないかと心配になります。
米国がくしゃみをすると日本が風邪を引くと言われていた時期がありました。そうならないことを切に願ってやみません。
以上
2025.4.1 理事長 倉重達也
「応援の力」
近年、スポーツの種類が広がりを見せ、若者が活躍する姿を目にすることが多くなりました。昨年行われたパリオリンピックのブレイキンやスポーツクライミング、スケートボードなどでは日本の選手が活躍する姿が見られ、その度に若い選手がインタビューなどで口にする言葉は今まで支えてきてくれた親や指導者への感謝とその場で応援してくれた観客への感謝の言葉でした。その時は「今の若者は何か皆、同じようなことを言うなあ」と言う思いで見ていました。
バレーボールやバスケットボールのリーグ戦などを見ていても試合終了後に活躍した選手のインタビューがあり、必ずと言っていいほどファンへの感謝の言葉があり、その時もリップサービスの常套句だなと思ってちょっと冷めた思いで聞いていました。
しかし、そんな自分の思いが変わった時がありました。それはスポーツの場面ではなく、「法人の中長期計画(インクルージョンプラン)」について外部の専門家の方々から意見をいただいていた時でした。皆さん真剣に藤沢育成会の事を考えてくださり様々な観点から意見をいただきました。それは、法人内部ではなかなか出難い視野の広い内容でした。こんなに藤沢育成会、強いては障害者福祉の事を考えてくれている人達がいると思うと大変心強く、同時に「応援の力」と言うのを実感した瞬間でもありました。
以上
(2025.3.1 理事長 倉重達也)